「やーっとクリアになった。甲ちゃーん、降りてきてー」
遺跡の最奥から九龍の声が響き、皆守は梯子を下りた。
バディとして彼に帯同し始めしばらく経つが、先陣を切って危険な場所へ足を踏み入れるのは、未だに九龍の役目だ。皆守はあくまでサブに過ぎない。
大昔に抱いた理想とは少し形が違う。けれど、共に在るということは、同じ視座を持ち、同じ行動を取るだけではない。
皆守は、匣の準備に取りかかろうとする彼の首根っこを掴んだ。
「待て。手当てはどうした」
「こんなのかすり傷……」
「そうか。ならこうしても平気だな」
「いっ……痛い痛い痛い! 甲ちゃん! 傷は握るもんじゃないよ!」
「じゃあ、どうすべきものだ? 言ってみろ」
「……応急処置して、悪化を防ぐべきものですかね」
「正解だ。お前の頭にも、やっと学習機能が追加されたみたいだな」
ハンターを捕獲し、救急キットを使用するのも、バディの重要な役割の一つだ。少なくとも、葉佩九龍という《宝探し屋》に関しては。
傷口を押さえられた九龍が暴れるが、いちいち取り合っていては仕事にならない。淡々と作業を進める皆守に、悲鳴はやがて英語の罵り文句へと切り替わる。
皆守は論文に使うようなテクニカルタームにこそ親しんでいるものの、英語のリスニングにはさほど熟達していない。知覚できないものはないのと同じ。なので問題なしだ。
数時間前、二人はとある貴族の屋敷を訪問していた。初めはメイドに箒で掃き出されかねない勢いだったが、阿門の名刺を見せるやいなや、手のひらを返したように《匣》との対面を許されたのであった。
こと《秘宝》が絡むと非常に図々しくなる九龍の手によって、その匣をしばし拝借することができた。よその家宝を指して「あ、これパーツごとにバラせるね。ラッキー、持ち運びに便利じゃん」と言い出したときにはちょっとだけ引いたが、実際彼の言うとおりだった。
「さて、処置はこんなところか。おい、いつまでめそめそ泣いてんだよ」
「泣いてねーわ。手当てしてくれてありがとうございました!」
やけっぱちのような大声に、皆守はただ、彼の肩を叩いて立ち上がる。
「どういたしまして」
責められなかったのが堪えたのだろう。九龍は「……ごめん」としおらしく呟き、《秘宝》を函の上へ移動させるべく、簡易な仕掛けを組み上げる。解析の結果、氷の内部にも有害な成分は見つかっていなかった。後は溶かすのみだ。
「あのさ……これが終わったら飲みに行こうって話だけど、やっぱ寝ちゃってもいいよ。無理してほしいわけじゃないし」
「起きててやるよ。まッ、一応約束したからな」
「そっか。……楽しみだな」
九龍は目元を緩ませ、仕掛けを作動させた。匣の上の氷は液体と化して床へ叩きつけられ、H.A.N.Tがけたたましく騒ぎ出す。
『高周波のマイクロ波を検出。強力なプラズマ発生を確認――』
「……二人とも生きてればの話だがな」