大人のたまご
【二〇一四年十二月二十五日】
目が覚めたら、一人じゃなかった。
皆守は起き抜けの頭でその事実に気づき、開けた瞼をもう一度閉じた。
昨夜床についたときは、確かに一人だった。
昨日はクリスマスイヴ。皆守はそういった記念日を特別重視するたちではなく、プライベートの予定もなかった。だから、既婚者の先輩たちの仕事を軽い気持ちで請け負ったが、こまごまとした作業も重なればけっこうな量だ。帰りは遅くなり、帰路につくころには値引き済みのクリスマスケーキが道端で投げ売りされていた。
予定はなかったし、ケーキも買わなかったが、駅前に施された見事なイルミネーションの前で足を止めた記憶はある。
誰かの顔を思い浮かべて、あいつがここにいたらはしゃいだだろうなと考えた。
皆守自身は街中の浮ついた空気に乗るようなタイプではない、と自分では思う。だが、身近な人間に付き合わされることはあった。そして、体験してみると案外悪くないことも知っていた。
立ち止まっているとそいつのことばかり考えてしまう。足早にその場を去った。彼はしばらく前からスリランカにいて、簡単には会えない状況だった。あまり思いが募ると、不在をより強く意識してしまう。
さっさと寝るに限る。そう考えて布団に入ったはずなのだが。
その張本人が隣で爆睡しているのはどういうわけだろう。
目を開けずとも誰かはわかる。学生時代から使っているシングルベッドは、成人男性二人で寝ようと思えば、窮屈なほどに密着するしかない。狭さに負けず同衾してくるような物好きは、世界にたった一人だけ。
平和な寝息を立てる彼を起こさぬよう、皆守はゆっくりと体を起こした。
葉佩九龍は目を覚ます気配すらなく、安らかに寝入っている。
いつの間に入ってきたのか、気配に敏感な皆守がまるで気づかなかった。もっとも、これはいまに始まったことではない。九龍はとうの昔に、本能が警戒する対象から外れている。
枕の脇に手をつくと、かさっと小さな音が鳴った。
ご丁寧に、靴下に入ったプレゼントが置かれている。なんと趣味の悪い靴下だろう。空港か観光客向けの露店で慌てて買ったに違いない。二、三回履いたら穴が空きそうな薄さだ。
それでも皆守は、プレゼントがベッドの端から落ちないよう、シーツの上へと大切に置き直した。
九龍の顔をしげしげと眺めながら、十年前のクリスマスの朝を思い出す。
まさかこんなことになるとは、あのころは夢にも思っていなかった。
そもそも、自分が成人することさえ予想外だったのだから。