「おい。なんだ、こりゃ」
さすがの皆守も、声を上げずにはいられなかった。
男子寮にある九龍の部屋。二、三ヶ月前までがらんどうだったはずのそこは、亀のマークの段ボール箱で埋め尽くされている。
「通販してたら溜まっちゃって」
「捨てろよ」
「頼む。手伝って」
段ボールタワーの隙間から手を合わされ、皆守は不本意ながら片づけを手伝うことになった。
「ったく、なんで俺がこんなことを……」
とにかく、手分けして山を切り崩す。箱を解体して重ね、紐で縛る。
とりあえず一束できた。ふうと息をつく。大きな箱は力を入れて折り畳まなければならないので、重労働だ。
九龍はちゃんと働いているのか。監視のつもりで、部屋の奥へ目をやる。彼はごついカッターを使い、段ボール箱の底面に貼られたガムテープを切っていた。
ガムテープ越しなのに、段ボールと段ボールの合間へまっすぐ刃が吸い込まれる。まずは短辺。ちきちきちき、とさらに刃先を出し、真ん中。ぴっ、と薄い紙の裂ける音。魚の腹をさばくかのごとく、箱の底が開かれる。
九龍は底面を蹴り抜き、箱を真っ平らに潰した。化人の卵のうを回収する時のように、板状になった段ボールを十字に縛り、ぐっ、ぐっ、と二回締める。
力技かと思いきや、細かいところにも注意が払われていた。紐の結び目は、どんなに動かしても決して滑らぬよう、特殊な形をしている。
そうして壁へ立てかけられた段ボールは、ぴたりと大きさが揃っていた。折り畳む際にサイズを測るそぶりなどなかったはずだ。人体でいうところの急所のようなものがあって、どこに力を加えればすんなり曲がるか、彼は承知しているのだろう。
皆守は立ち上がり、とんとんと自分の腰を叩いた。中腰で作業し続けていたので、疲労が蓄積されている。
皆守は、あまり腰が丈夫なほうではない。
次の段ボールに取りかかる九龍を棒立ちで眺めていると、彼が視線に気づいた。
「どうかした? あ、腰痛いとか?」
「まあな」
「昼寝もいいけど、もっと鍛えとけって。化人にやられちゃったらどうすんだよ。ま、俺がさせないけど」
そう言いながら、九龍が十一枚目の段ボールを折り曲げる。
人体でいうと、ちょうど腰のあたり。
「……そうだな」
まあ、折られなければいいだけの話だ。そう思ったが、何かうすら寒いものを感じて、皆守は腰をさすった。
結論を言えば、化人にはやられずに済んだ。
そう、化人には。