狸寝入り

 圧迫感で目が覚めた。
 薄明の中、何度か瞬きをする。龍介の腕と脚が自分の体にがっちり絡みついていた。
 支我はしばしの間、彼を起こさずに腕の中から抜け出そうと試みた。しかし、びくともしない。抱きつかれているというよりは絞め技に近かった。
 寝相が悪いのは知っている。支我の観測する限りでは、毛布や枕がたびたびその被害に遭っていたが、ついに当事者の立場となったわけである。
 若干息苦しいので、できれば拘束を解いてもらいたい。しかし睡眠を妨げたくはない。支我はしばらく試行錯誤していたが、やがて断念し、再び暖かい牢獄へ収監された。
 落ち着いてしまえば、そこはかなり居心地がいい。唯一気になるのは、彼の髪が喉に当たってこそばゆいことくらいだった。
 龍介の髪の毛は、支我のそれとは異なり柔らかくてさらさらしている。忙しいのなんのと言いながら手入れは欠かしていないようだった。
 手遊びに梳いてみると、指の間をするすると通り抜けてゆく。これは面白い。支我は興味を持ち、その動作を繰り返した。
 同じたんぱく質なのに、どうしてこうも触り心地が違うのだろう。昇り始めた朝日の下、つやつやして見えるのも支我とは異なる。
 それに、なぜこんなに飽きもせず触ってしまうのだろう。ただの髪の毛なのに。
 その答えを支我は既に知っている。彼に教えられたから。
 支我はさまざまな角度から感触を楽しみ、存分に味わった。そして満足し、定刻までもう少しまどろむことにした。
 その時になって気づく。
「……ん?」
 カーテンから漏れる朝焼けの色を差し引いても、龍介の耳が赤く染まっている。
 不思議なこともあるものだ。彼はまだ眠っているのに。
 支我の頭脳がにわかに回転し始める。
 さて、どうしてだろう?

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