居候と夕食を取って、クイズ番組をつけっぱなしにしながらゴロゴロしていたときだった。
「あ。日本にも生えてんだ」
 九龍が声を上げたのでテレビを見ると、ある植物の写真が映っていた。名前を問う問題で、和名の一部が虫食いになっている。
「これさー、ハンターになる訓練受けてたころに食って大変だったんだよなぁ」
「訓練ってんなら、口へ入れる前に教官か誰かが指摘するんじゃないのか」
「それが、毒物への耐性を見たいからって黙ってたんだよな」
「実際に摂取させて試すのか?」
「うん。俺だけじゃなくてみんなそう」
「……うっかり死んだらどうするんだよ?」
「さすがに、致死量を超えてたら止めるよ。でも基本、多少のことに耐えられない奴は向いてないってことで失格」
「とんだブラック企業だな……」
「ひ弱な奴を一から鍛えるより、ある程度耐性ある奴のほうが手間かかんないからな」
 こともなげに話す九龍は高校時代のジャージ姿で(皆守のだ)、冷凍庫に入っていたアイスをあっという間に平らげてしまった(これも皆守のだ。口を開けたら少し分けてくれたから許す)。厳しい環境をかいくぐってきた男にはとても見えない。
 しかし、襟ぐりに鼻先を突っ込んでみれば、いともたやすく印象が変わる。土埃と硝煙のにおいは、生まれながらにしてそうであったかのように彼の肌へと染み込んでいた。
 九龍がこの部屋に滞在する短い時間で、その香りを抜くのが皆守の仕事だ。今回は血臭がないので、一晩も経てば終わるだろう。
 左手の親指で、九龍の額の端を撫でる。どんな洗髪剤を使っていたのか、そもそも入浴もままらなかったのか、黒い髪はぱさついて手触りが悪い。
「まあ……あんまり無茶はするなよ」
「え? ……えっ? どうしたんだよおい、今日は優しいな」
 驚愕に目を見開いたかと思えば、とたんにでれっとして抱きついてくる九龍の顔を、力いっぱい押し返す。上背は大差ないが、彼のほうが横に大きいので、狭い部屋でまとわりつかれると視覚的にも暑苦しい。
「いつも、優しい、だろッ……くっ、この馬鹿力」
 九龍との間につっぱった腕が軋んでいる。皆守は早々に抵抗を諦め、好きにさせることにした。
 九龍はますますやに下がり、皆守の首回りへ顔を埋めた。犬がやる、擦りつけてくるタイプの愛情表現だ。もともと生地の伸びていた部屋着が、よけいにくちゃっとなってしまった。
「いつもは優しさがわかりにくいけど、今日はわかりやすい」
「そうかよ。くそっ、言うんじゃなかったぜ」
「聞けてよかったけど……」
 九龍ははっと顔を上げた。
「こんなにいつもと違うなんて、まさか俺を油断させるための罠?」
「ふん……そうだな、お前を甘言で惑わせて陥れる魂胆かもしれないぜ。どうする?」
「うーん」
 九龍が考え込んだ時間は短かった。再び、ぱたりと首を下げる。
「ま、いっか」
「いいのか」
「毒を食らわば皿までっていうしな」
「意味、わかって言ってるか?」
「彼女と彼氏には何されてもかわいい」
 まあだいたい合っている。皆守は毒を食わせてやろうと、親指で彼の口を開けた。

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