「第一回! 天香怪談大会! イェ~!」
 ぱちぱちぱちぱち。
「なんで俺の部屋でやるんだよ」
 皆守は至極真っ当な質問をしたつもりだったが、当然のように無視された。
「まずはボクからでしゅね。これはA組の七瀬たんから聞いた話でしゅが……ボクのお裾分けしたポテトスナックが、一晩経つとどこかへ消えてしまうらしいのでしゅ」
「さすが天香、食いしん坊なお化けでもいるのかな」
「またいつでも分けてあげるでしゅが。お次は砲介たんでしゅ」
「はっ。自分はよく廃屋街で演習をおこなうのでありマスが、落ちている木材が行くたびに減っているのでありマス」
「……綺麗好きな幽霊でもいるのかな」
「おかげで歩きやすいでありマスッ。黒塚ドノはいかがでありマスか」
「そういえば最近、部室からよく石がいなくなるんだよね。でも石は旅をするものだし、寂しくはないんだ。遠い空の下で元気にしていることを願うよ」
「元気だよ」
 九龍が黒塚の肩へ手を乗せると、肥後と墨木も暖かい拍手を贈った。
 皆守はアロマパイプをふかしながら、狭くなった自室の片隅でなおもぼやく。
「で、なんで俺の部屋でやるんだよ」
 あと、その怪談の犯人、さっきから目の前で適当なこと抜かしてるぞ。
「君は?」
「……ん?」
「恐怖を感じた話はないのかい? 可愛い子カレーが忽然と姿を消したとか」
「ああ。なァ、九ちゃん」
 九龍に話を投げると、体育座りをしたままあさっての方向を向いた。
「まあ、それは理由がわかってるんで、怖い話とはいえないな」
「えー、じゃあ甲ちゃんの怖いものって何よ? 俺聞きたーい」
 全速力で話を逸らしにきた九龍の顔をじとっと見つめる。そろそろきつく灸を据えなければなるまい。それはともかく。
「……いつもは適当なこと言ってる奴に本気で殴られる、とかな」
 お化けも幽霊も怖くない。化人は蹴り倒せばいいし、死んだ人間にはむしろ会いたい。
 だから一番怖いのは未来だ。
 拳を受けるその時、自分たちはまだ親友でいられているだろうか。

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