クラス全員分のノートを運ぶという苦行を終えて教室へ戻ると、九龍と八千穂が並んでアイスを開封するところだった。
「おう甲ちゃん、日直お疲れ」
九龍の隣席から勝手に椅子を借りつつ、皆守は無言で左手を差し出した。
「え? なにこの手」
「労働の対価を要求する」
「あ、ごめん。甲ちゃんの分買うの忘れてた」
「お前……、それがダチへの仕打ちか?」
「ごめんて。パピコ半分あげるから許して」
九龍は連結された二本のアイスをぱきっと割り、片方をよこした。
「あー、お前ってそういう奴だよな」
「なんだよ、半分やったんだからいいだろ」
「もう、二人とも喧嘩しないのッ。あたしも半分あげるから」
八千穂もアイスを一本ずつに切り離し、その片方を皆守の手のひらに乗せた。
納得がいかない。皆守が二本、二人は一本ずつ。これでは皆守がアイスをカツアゲしているようではないか。
「ちょっと待ってろ」
と言い残し、皆守は三年C組の教室を出た。
一階にある売店へ向かい、再び教室に戻ると、二人はアイスには手をつけず待っていた。今日の気温からすると、ようやく食べやすい柔らかさまで溶けた頃だろう。
皆守は買ってきたアイスを半分に割り、片方を九龍に、もう片方を八千穂に渡した。
「パピコが増えた」
「これでみんな二本ずつだねッ」
「オー丘サーファー!」
「惜しい! オーオカエチゼンだよ、九チャン」
「『大岡裁き』だろ。しかし買ってきたはいいが、このクソ寒いのにアイスなんざイカれてやがるな」
「いーじゃん、冬のアイスも悪くないもんだぜ」
九龍に取りなされ、皆守は椅子をストーブの近くへ動かすことで折り合いをつけた。
「はーいそれじゃあ、いただきまーす」
九龍の号令で、三人同時にチューブ容器の封を切る。
まあ確かに、背中がぽかぽか暖かい状態で、冷たい間食をするのも悪くなかった。この日を境に、新しい冬の楽しみ方が一つ増えたのだった。